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「一生賃貸は賢い」が間違いである7つのエビデンス

2023年5月26日

一生賃貸で暮らす、ということは次のような点を受け入れるということでもあります。

日本の賃貸住宅に住んだ場合

それと引き換えに、いつでも引っ越しをする自由を手に入れて、ローン破綻の心配から自由になるわけです。

でも、本当に引っ越しをする自由が必要でしょうか? またローン破綻は避けられないのでしょうか?

この記事では「一生賃貸」派の7つの間違いを、エビデンスをもとに解説していきます。

一生賃貸に住むと決めた理由調査結果
一生賃貸に住むと決めた理由調査結果

AlbaLinkの調査によると「一生賃貸と決めた理由」のトップ5は次の通りです。

  1. 引っ越ししやすい
  2. メンテナンスの負担がない
  3. 固定資産税の負担がない
  4. 転勤が多い
  5. 家を買うお金がない

出典:一生賃貸と決めた理由

しかし、上記5つの理由のうち④の「転勤が多い」以外はエビデンスに基づいて否定することができます。

この記事では、その点をデータで示し「賃貸のメリット」と思われている物のほとんどが間違いであることを立証していきます。

もし、一生賃貸で勝ち組になろうとしたら、数少ない選択肢は市営住宅などの公営住宅か、家賃補助が手厚い会社に就職することでしょう。

まず前提として、日本の賃貸住宅が極めて劣悪な条件にあることから見ていきます。

転勤が多い場合に持ち家は買えませんが、そのケースでは家賃補助が出る場合もあります。差額を貯蓄しておけば、老後の住居費として役立つかもしれません。

①「賃貸物件の狭さ」が、日本の家をウサギ小屋にした

持ち家と賃貸の平均床面積の推移
持ち家と賃貸の平均床面積の推移

このグラフは、わが国における住宅の延床面積の推移です(国土交通省の資料に基づいて作成)。持ち家の床面積は、早くから100㎡を超えており、平成10年代には122㎡を超えていることがわかります。

それに対して、賃貸住宅の床面積は非常に狭く持ち家の床面積の半分にも満たない水準です。

かつてEC(当時のヨーロッパ共同体)が出した文書の中で、日本の住宅が「うさぎ小屋」と表現されましたが、それは集合住宅を指しており、まさに日本の賃貸住宅こそがうさぎ小屋の正体だったといえます。

また、世界各国と比べて日本の賃貸住宅の床面積は非常に狭いというデータもあります。

戸当たり住宅床面積の国際比較
戸当たり住宅床面積の国際比較(国土交通省のデータに基づき作成)

この現実を無視して「賃貸がトクか、持ち家がトクか」を議論してもはじまりません。賃貸と持ち家では、居住環境がまったく違うからです。

では逆に、賃貸であっても分譲住宅と同じグレード・同じ広さの物件に住んだ場合のコストはどうなるのでしょうか? 次章では、その計算をご紹介します。

同じ広さ・グレードで比べると1300万円の差が付く

前章では、賃貸住宅と持ち家で、床面積やグレードに大きな差があることを確認しました。では「持ち家と同じグレードの賃貸住宅に住んだ場合の予算は?」という点が気になります。

そこで、フドマガでは以下のような記事を作成し、詳細に試算してみました。結果、持ち家と同程度のグレード・広さの家に35年間住んだ場合、賃貸暮らしは1300万円ほど高くつくことがわかりました。

以下の記事では、政令指定都市(大阪府堺市)内の同一エリアにある賃貸一戸建て住宅と分譲一戸建て住宅を詳細に比較しています。

関連記事「賃貸と持ち家で1300万円の差」は本当なのか検証してみました

結論からいうと、同一エリアで同程度の広さ・グレードの住宅に35年住んだ場合のコストを詳細に計算すると、賃貸の方が約1300万円高くつくことがわかりました。 上記は大阪府堺市南区に実在する2物件(いずれ ...

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②「引っ越しはしない方がいい」が研究者の結論

「賃貸は自由に引っ越しできるからいい」という理由で一生賃貸を選ぶ方もいるようですが、引っ越し、特に幼少期の引っ越しは、その後の人生にとってマイナスであることがわかっています。

上の動画で、京都大学の川端祐一郎准教授が「子どもの頃に引っ越しをたくさんしている人は、大人になってから不幸になる」という調査結果を紹介しています。

子どもの頃の引っ越し回数が多いほど……

  1. 大人になってからの幸福度が下がる
  2. 健康度が下がる
  3. ある年齢での死亡率が上がる
  4. 大学での学業成績が下がる
  5. 反社会的行動が増える

ということが学術的に判明しているそうです。

そこで、子育て世帯などではできるだけ引っ越しをしない方がいいというのが川端准教授の意見です。

そもそも普通の人はあまり引っ越しをしない

そもそも人は、生涯に何回引っ越しをするのでしょうか? 調査によりバラツキがありますが、おおよそ3~5回程度とする調査・研究が多いようです。

また、引っ越しの理由としては「職業上の理由」が最も多く21.9%、次いで「住宅を主とする理由」が20.8%、「家族の移動に伴って」が9.7%、「結婚」が8.2%となっています

5年移動の理由(引っ越しの理由)
社人研「第8回人口移動調査」に基づいて作成

大学進学時に1回、就職で1回、結婚で1回引っ越しをして、持ち家を買って1回引っ越しをするとしたら、これで4回引っ越しをしたことになります。

一般論としては、これで一生分の引っ越しをしたことになりますし、それ以上引っ越しを繰り返すとしたら、何か特殊な事情があるケースでしょう。

一般に、人はそれほど引っ越しを繰り返すわけではありません。

③固定資産税と修繕費用はあなたが払う家賃に含まれている

不動産投資に関する本
大家さんはちゃんと経営を学んだうえで投資している

大家さんは、あなたの収入の30%を目安として家賃を設定します。収益物件(賃貸アパート等)の計画時に、どのような人が住むかというターゲットを設定し、そのターゲット層の月収を想定し、家賃をその30%前後に落とし込むように設計していく、ということです。

大家業は慈善事業ではなく、ビジネスです。

そこで、設定した家賃の額に以下のようなものが収まるように計画します。

  1. 大家の利益
  2. 建物の減価償却分
  3. 建物の将来的な修繕費等
  4. 土地・建物の固定資産税等
  5. アパートローンの金利等
  6. 空室コスト
  7. 滞納コスト
  8. 原状回復費

記事前半で「日本の賃貸住宅は持ち家に比べて劣悪な環境だ」ということを説明しましたが、家賃にこれだけのコストが乗せられていることがその原因です。

家賃に含まれるものの図解
家賃に含まれる利益やコスト

家賃の決め方

家賃の決め方にはさまざまな考え方がありますが、主に「試算賃料=(基礎価格+利回)+諸費用」というように計算し、取得時にかかった費用だけでなく、利回という形でしっかりと利益を乗せ、さらに諸費用もプラスして決定します。

大家業は慈善事業ではないので、利益を出すことを前提に家賃を決めています。

④一生賃貸で暮らす人は1割しかいない

高齢者の現在の住まいの住居形態(内閣府)
高齢者の現在の住まいの住居形態(内閣府)

内閣府が行った「高齢者の住宅と生活環境に関する調査(平成30年度)」で、全国の60歳以上の方のうち、賃貸住宅に住んでいる人は11.3%であることがわかっています。

エリアによってその割合は異なり、大都市部では賃貸住宅に住む人が19.9%、町村部では7.3%と差が付きますが「賃貸は少数派である」という実態に変わりはありません。

次の章で見るように「賃貸では老後破綻の危険性がある」など、老後の不安もその一因となっています。

現役世代の持ち家比率が減少している理由

持家世帯比率の推移
持家世帯比率の推移「令和2年版厚生労働白書」

今後とも9割の人が老後を持ち家で過ごすかというと、それは難しそうです。日本が貧しくなっていく中で、高齢層の持ち家率も減少していくだろうと考えられるからです。

上のグラフは令和2年の厚生労働白書に掲載された「持家世帯比率の推移(家計を主に支える者の年齢階級別)」というグラフですが、若い層で持ち家率が低下していることがわかります。バブル崩壊の時期を境に40歳未満の持ち家率が大きく下がっており、家が持てなくなっている状況がうかがえます。

家が持てない理由のひとつとして、首都圏を中心とした都市部での物件価格上昇があげられます。

首都圏の住宅価格の年収倍率の推移
首都圏の住宅価格の年収倍率の推移

このグラフは国土交通省が発表している年収倍率の推移です。年収倍率というのは、購入する家の価格が年収の何倍か? という数字で、2012年には約6倍でしたが、9年後の2021年には8倍弱になっています。

年収800万円の人が6400万円近い物件を購入するということになり、これはさすがに高すぎるのではないかと感じます。

6000万円の住宅ローンを組み、35年償還・金利1%でボーナス払いなしとして試算すると、月々の返済は169,371円になります。これは年収800万円の人の手取り収入に対する返済比率が34%という計算になり、かなり危険な水準です。

家が持てないもうひとつの理由としては、非正規雇用など、不安定な環境で働く人が増えていることが考えられます。非正規雇用の人たちの安定した生活について、本来は今この時期に政府が手を打つべきではないかと思います。

手ごろな中古マンションをリフォームするなどの方法で低価格なマイホームを入手し、より安全な住宅ローンを組むことは十分に可能です。

⑤一生賃貸だと「老後破綻」の危険がある

65歳以上の夫婦のみの無職世帯の家計収支
65歳以上の夫婦のみの無職世帯の家計収支

上のグラフは総務省の「家計調査年報(2020年)」から作成したものですが、65歳以上の無職高齢世帯の家計(可処分所得)に住居費が占める割合は6.5%です。

上記グラフにおける可処分所得の平均額は225,501円ですから、住居費には14,658円しかかかっていない計算になります。今の高齢者が老後破綻せずに暮らしていけるのは、住居費がほとんどかからないことも理由のひとつになっています。

仮に月額家賃5万円の賃貸住宅に住むとしたら、月々3万5000円分の食費や娯楽教養費を削る必要がありますし、家賃10万円であれば月々の家計が赤字となることを避けられず、貯蓄がなくなった時点で破綻することになります。

老後2000万円問題は「持ち家が前提」の議論だった

また、一時話題になった「老後2000万円不足問題」も、前提は持ち家です。持ち家であっても2000万円不足するという試算なので、賃貸であれば約25年分の家賃相当額が上乗せされることになります。

その結果、家賃5万円の家に住むと「老後資金が3500万円不足」し、家賃10万円の家に住むと「老後資金が5000万円不足する」ということになります。

⑥家の買い方を考えれば破綻しない住宅ローンを組める

安全な年収倍率
緑の破線が安全な年収倍率

上のグラフは先ほどの「首都圏の住宅価格の年収倍率の推移」というグラフに「安全な年収倍率」を加えたものです。最近では年収の8割近い物件を購入する人が多いということがわかります。

フドマガ
筆者が不動産業者として見てきた住宅ローン破綻者の多くは「借りすぎ」が原因でした。

年収倍率8倍の物件をフルローンで購入すると、ローンの返済比率が30~40%という危険な水準になります安全な年収倍率。

本来安全とされる返済比率は、手取り収入に対して20~25%です。これについては三菱UFJ銀行のサイトにも明記されており、筆者の考えと合致します。

では、安心な水準で買える物件の目安はどれくらいでしょうか? ざっくり計算して、一覧表にしてみました。

年収別・返済比率25%の金額

年収手取り買える物件の価格
400万円約320万円約2300万円
600万円約460万円約3400万円
800万円約600万円約4400万円

物件価格と同額のフルローンを組んだ場合で、金利1%、35年償還、ボーナス払いを考慮しない条件で試算しました。数値は概算なので誤差があります。

目安としては、額面の年収に対して5.5倍くらいまでの物件であれば「安全な年収倍率」に収まっていると考えてよさそうです。

東京都区内であれば築古マンションでも難しい金額ではありますが、通勤可能な範囲で、神奈川県、埼玉県、千葉県まで視野に入れるとかなり現実的な予算になります。

たとえば横浜市鶴見区であれば、新耐震基準で建てられた建物であっても、なんとか徒歩圏で探すことができます。

「自分に家が買えるかどうか」はスマホで確認できる

自分に家は買えない…とあきらめている人もいますが、実はそうでもありません。筆者は年収200万円のフリーターのお客さんのローン付けに成功したことがありますが、傾向と対策さえ間違えなければ、ほとんどのケースで住宅ローンが組めます。

筆者は、フラット35についての不動産業者向けセミナーで「組めないローンはない」という言葉を聞いたこともあります。

もし「自分に家は買えないから、一生賃貸でいい」とあきらめているとしたら大変もったいない! 昔と違ってスマホさえあれば「自分にいくらのローンが組めるの?」という借入枠を知ることができます。

株式会社МFSが運用する「モゲチェック」というサービスなら、すべてのメガバンクを含む多数の銀行と提携しており、精度の高い判定が可能です。また、モゲチェックは銀行が拠出する広告費で運用されているため、ユーザーは無料で利用できます。

自分の借入枠を把握したうえで、安全な水準のローンを組んでください。モゲチェックでは「どの銀行が有利か」などもAIが提案してくれるので、それも参考にしてみてください。

⑦住宅ローンを滞納する人は全体の約2%程度

破綻先債権額 651億円
延滞債権額 2297億円
3か月以上延滞債権額 703億円
貸付条件緩和債権 3986億円
貸付金残高 238779億円
破綻先債権の割合 0.3%
延滞債権の割合 1.0%
貸付条件緩和債権の割合 1.7%

上の表は、住宅金融支援機構が発表している「令和2年度ディスクロージャー誌」のデータを基に作成したものですが、住宅ローンの滞納をしている人や支払いが困難な人の割合は約2%であることがわかります。

これはほかの調査とも近い数字で、「住宅ローン支払いに困窮する人・破綻する人の割合は2%程度」と考えてよさそうです。

しかも、少し上の章で紹介したように非常に高い年収倍率の高額物件を購入している状態で2%ですから、より安全な価格帯の住宅を買うことで、リスクを軽減することができるはずです。

もちろん無理のある住宅ローンを組むことはおすすめできませんが、住宅ローン破綻を恐れすぎると判断を間違えてしまう可能性があります。

まとめ

公営賃貸住宅の募集案内例
公営賃貸はコスト的に有利

この記事では、「一生賃貸で暮らすのが有利だ」という考えの間違いを、様々なデータで指摘してきました。

ダイヤモンドオンラインの以下の記事(沖有人氏が執筆)では別角度からこの問題を論じ、同じ結論を出しています。

もちろん、市営住宅や県営団地などの公営賃貸住宅などで、コスト的には持ち家と変わらないか、むしろ有利な場合もあるはずです。

しかし、きちんと前提条件をそろえて民営賃貸と持ち家を比較すれば、コスト的には必ず持ち家が有利となります。

もし「自分には家を買えない」「ローンなんて組めない」と考えているとしたら、それはもったいない思い込みです。

ほぼすべてのメガバンクやネット銀行と提携し、正確な判定を出せるモゲチェックなどを利用して「自分には住宅ローンをいくら借入できるか?」を確認してみてください。

モゲチェックは銀行の広告費で運営されており、ユーザーは無料で利用することができます。


参考文献

人口の減少、少子高齢化の進展など人口構造の変化に対応した国土交通行政の展開(国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/hakusyo/mlit/h14/H14/html/E1022211.html

suumo「みんなの引っ越しの平均回数はどのくらい?男女年齢別の理由や見学する物件の数」
https://hikkoshi.suumo.jp/oyakudachi/6680.html

第5回人口移動調査の要旨
https://www.ipss.go.jp/ps-idou/j/migration/kekka.htm

今まで何回引越しをした? 10~50代364人へ引越し回数を調査した(Homes)
https://www.homes.co.jp/cont/press/report/report_00176/

金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」
https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20190603/01.pdf

家計調査年報(家計収支編)2020年(令和2年)
https://www.stat.go.jp/data/kakei/2020np/gaikyo/pdf/gk02.pdf

大家さん必見!家賃の決め方3ステップ。工夫次第で高い家賃を設定できる?(ビズアナ)
https://www.o.biz-ana.com/post/howto-decide-rent/

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