売買契約書などの重要書類に隠された不動産屋の狙いについて考えてみたことはありますか?
彼らはその道のプロですから、次のような内容を、一見わからないように埋め込んでいます。
- できるだけ自分たちが法的責任を負わないように記述
- 成約しないと仕事にならないので、細かい点はうまくごまかす
どんなに良心的な不動産屋であっても、上記2点は必ず入れてきます。
「重要事項説明書」と「売買契約書」の2つの書類のうち、この記事では「売買契約書」を詳しく取り上げます。「重要事項説明書」については他の記事でも触れているので、要点をおさらいしておきます。
この記事でわかること
契約前に受け取る2つの書類「契約書」と「重説」

宅地建物取引業法によって、不動産業者は契約の前に「売買契約書(売契)」と「重要事項説明書(重説)」を渡しておくことが義務付けられています。

売契と重説、それぞれの書類の違いや役割は次の通りです。
売買契約書 | 取引の目的と契約の内容について記載 |
重要事項説明書 | 売買契約書と重複する部分があるが、取引の目的となる物件について詳しく記載 |
この記事では重説について軽く説明してから、売買契約書の注意点を詳しく見ていきます。
重要事項説明書の絶対見ておくべきポイント

重説については以下の2つの記事で詳しく解説していますので、時間があればそちらも読んでみてください。
参考【不動産売買】重要事項説明書の読み方<完全版>土地・一戸建て・マンション
ここでは上記の記事で触れていない、その他の注意点を押さえておきましょう。
重要事項説明書は早めにもらえるように念を押す
宅地建物取引業法では、重要事項説明書は「契約が成立するまでの間に」物件の買主に交付して、なおかつ宅建士がその説明をするように定められています。
契約が成立するまでの間なので、契約の直前でもかまいません。
そこで、多くの不動産屋は契約の当日、契約書にハンコを押す直前に重要事項説明書を渡して読み合わせをしています。

そこで、重要事項説明書を契約の当日ではなく、少なくとも数日前に入手するようにしてください。契約の日程を決める時、忘れずに…
重要事項説明書、早めにくださいね。

と念を押してください。そうしないと高確率で契約当日に渡されて、何が何だかわからないままにハンコを押すことになります。
ポイント
重要事項説明書は早めにもらわないとチェックできません。なかなか送ってこない時は「メールで下書きを送ってくれればいいですから」と、とにかく早く送ってもらえるように催促してください。
宅建士の説明は最悪当日でもよいかなと思いますが、私は可能であれば数日前に書面を渡して事前説明をするようにしていました。
売主と買主の利害がどのようにバランスされているか?

取引をまとめるために不動産屋は売主と買主の間に入って、利害を調整しながら書類作成をします。
その時「どういう思惑があってその数字を決めたのか」を見ておきたい部分があります。
契約不適合責任をどう定めるか?
契約不適合責任は、令和2年3月まで「瑕疵担保責任」といわれていた項目に相当します。民法が改正されて契約不適合責任になり、どちらかというと売主不利な状況になりました。現在は、瑕疵担保責任の時に比べると、買主は売主の責任を問いやすくなっています。
では売主は契約不適合責任をどれくらいの期間負うのか? その決め方が問題になります。
比較的新しい中古物件なのに「売主は契約不適合責任を負わない」と定められている場合は、買主にとって不利な条件だといえます。そういう場合は理由を確認しておき、納得いかなければ少しでも契約不適合責任を認めてもらいましょう。
とはいえ、売主が一般の方であれば、長い間契約不適合責任を問えるような契約内容では気の毒です。
そこで、一般的には契約不適合責任を問える期間を3カ月程度とすることが多く、その期間を増減することで価格交渉の材料にするケースもあります。
ほぼ土地値の格安一戸建ての場合は売主もそこまで責任を負えないので、契約不適合責任は負わないという契約書もよくあります。この場合、買主はその条件で合意せざるを得ないでしょう。
ポイント
契約不適合責任は3カ月程度をひとつの目安とし、短すぎる場合は「それでよいのか?」と確認してください。
手付金の額が極端に少ない場合のデメリット
不動産を契約する時の手付金は「解約手付」といって、買主は手付金を放棄することで契約解除ができます。
一方売主は手付金を倍返しすることで、契約を解除できます。
時々「予算がないので手付金10万円でいいですか?」と、極端に安い手付を指定してくる買主がいますが、あまりおすすめできません。
売主はいつでも契約を流してしまえるからです。
とりあえず契約しておくけど、もっといい値段で買ってくれる買主がいたら、手付倍返しで契約解除してしまおう。

そこで、手付金はある程度重みのある金額を入れるようにしてください。そうでないと物件を押さえているつもりが、まったく押さえていない状態になってしまいます。
契約が解除となった場合でも、いったん契約が成立しているので、不動産会社は仲介手数料の請求ができます(全額か一部かは状況によります)。特に、契約時に仲介手数料の約定にハンコを押させる業者の場合は要注意です。
ここまで読んで知識不足を感じたら、おすすめの勉強法

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このお客さんはすごい知識量だなぁ。

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不動産売買契約書6つのチェックポイント

売買契約書の構成は、ざっくり説明すると以下のようになっています。
セクション | 項目 | 要注意度 | |
頭書 | 売買の目的物 | ||
① | 代金・手付金・支払日 |
★★ |
|
② | その他約定 | ★ | |
③ | 融資関連 | ★★ | |
④ | 契約不適合責任 | ★ | |
契約条項 | ⑤ | ひな形部分 | ★ |
⑥ | 特約条項 | ★★★ |
頭書の内容を条文内に入れ込んでしまう書式もあります。
ちなみに頭書は「かしらがき」と読みます。頭書の冒頭で売買の目的物(売買する不動産)について書かれているのが一般的ですが、多くの場合そこには重説の内容がコピペされています。
最近多くの業者が使っている契約書フォーマットはエクセルの書類で、重説に入力すると必要箇所をエクセルが自動でコピペしてくれます。なので、重説とかぶる部分はさらっと目を通せばOKです。
①その日程で融資が可能か考える

買主目線では「その日程で融資可能か」を見ましょう。

契約書では残代金の支払日を決めるのが一般的。その日に向けて売主、買主、不動産業者、司法書士などが日程を調整します。
あまりタイトな日程にしてしまうと、銀行の融資が間に合うのかが不安。間に合わない場合は買主の責任になるので、あらかじめ銀行と相談してから日程を決めてください。
買主の融資が間に合わず決済の日程が延期される、というのは実際にある事です。実務ではもともとの契約書(原契約)の決済日を書き換える覚書を作り、新たな日程で決済を行います。
②固都税を按分精算する起算日に注意

買主は名義を移転した日以降の税金を負担する必要があります。

不動産の契約においては物件を引き渡す日(決済日)を基準に、固定資産税などを按分して清算します。
この時、1年を数える起算日が2種類あります。
1月1日起算 | 全国的に採用されている |
4月1日起算 | 関西ローカルルール |
計算をしてみるとわかりますが、4月1日起算日だと買主に不利になります。固定資産税・都市計画税が高額な物件では注意したいポイントです。
関西の買主さんはあきらめて受け入れるしかないですが、その他の地方でも念のため注意してください。

③ローン条項に注意して読む

融資申込先の記載も売主と買主で着眼点が違うので、売主目線の補足も掲載しておきます。
買主は融資申し込み先銀行が書いてあるかをチェック。

たいていの売買契約書ひな形には、買主が融資を申し込む金融機関名を書く欄があります。欄があるからには意味があるのですが、けっこう空欄のまま上げてくる不動産業者が目立ちます。
買主の立場で見ると、空欄はかなり気になります。必ず申込み金融機関を書いてもらってください。万が一融資が不可になった場合、なんとしてでも契約の履行を求められる可能性があります。そうなると、金利が高い銀行で借り入れをしてでも、売買代金を用意する必要が出てしまいます。
たとえばモゲチェックなどで確認できるベストな金利と、一般的な銀行の金利では2倍以上違います。
売主はローン条項に注意!
売買契約書には通常「ローン条項」と呼ばれる条文が含まれています。もし売主の立場であれば注意したいのですが、これは「契約書に定めた期限までに融資が通らなかったら、契約自体を白紙に戻す」という条項です。売主に何の責任もないのに契約が解除となってしまうため、かなり残念。ローンが通りにくい買主の場合は不動産業者の営業マンと相談して「二番手のお客さんを付ける」という対策が必要です。
④契約不適合責任は付いてくるか?

重要事項説明の部分で詳しく解説していますが、契約不適合責任については3カ月を目安にしてください。
不動産業者が売主の、いわゆる「売主物件」については、法律によって少なくとも2年の契約不適合責任を負うことが定められています。
物件により、契約不適合責任を負わないと定めるのが妥当というケースもあります。
⑤メインとなる「契約条項」は比較的問題になりにくい
頭書がおわると、契約条項に移ります。いかにも契約書らしい条文が並んでいるパートです。
たいていの場合、この部分は財団法人不動産適正取引推進機構のひな形を下敷きにしています。そのため、この部分は消費者保護もきちんと考えられた、安心できる内容となっています。
見ておいたほうがいいのは、たとえば実測売買か公簿売買かという違い。実測売買では物件の引き渡しまでに、売主負担で土地面積を実測します。地価が高いエリアでは実測売買が多く、地価が安いエリアでは公簿売買が多い傾向があります。
⑥特約条項は最も注意が必要な部分

契約条項(条文)の大半は、財団法人不動産適正取引推進機構のひな形に沿った内容と説明しました。決まりきった部分ですし、法令に基づいて専門家が作成した文面です。
ところが、特約条項は不動産屋の担当者が書いています。2つの意味で危険です。
- そもそも法律的に有効かわからない文面もある
- 不動産屋に都合がいい内容を盛り込んである
不動産屋も商売ですから、自社が困らないようにある程度手を打つのは当然といえば当然です。
とはいえ、契約書を作った担当者の知識不足でほとんど意味のない文章になっているケースもあります。

「怪しいなぁ」と思った時に調べる余裕がほしいので、やはり重説・売契などの書類は早めにもらっておくに越したことはありません。
不動産屋(特に大手)はコピペ魔

だいたいどこの不動産業者も特約条項に入れ込む「コピペ用文例集」を作っています。何かあった時に責任を問われにくくするための文例集で、とりあえず「何でもいいからコピペしとけ」的に運用されています。

不動産屋はこういったコピペ文例を利用して、後から何か問題になりそうな部分は「容認事項」として記入し、あらかじめ消費者に容認させてしまいます。
とくに不動産屋(宅建業者)が売主の場合2年間は契約不適合責任を負う必要がありますから、その責任をなるべく回避するような内容の文言を入れている場合があります。上記の文例もそのひとつです。
そして大手業者ほどこのコピペ部分が長い傾向があります。
特約についてはできるだけじっくり見ておいて、疑問点を残さないようにしてください。

この記事の要点をおさらい!

売買契約書や重要事項説明書には注意点が多いため、記事が長くなってしまいました。そこで、もう一度要点をまとめておきます。
タップできる目次
基本は重説・売契を早めにもらうこと
読むべきポイントが非常に多い重要事項説明書と売買契約書を、契約当日に渡してくる業者はたくさんいます。
それではちゃんとチェックすることもできません。
PDFファイルをメールに添付してもらえばOKですから、早めに入手するようにしてください。重要事項説明書の注意点は、以下の2記事で解説しています。
参考【不動産売買】重要事項説明書の読み方<完全版>土地・一戸建て・マンション
売買契約書は6つのチェックポイントを押さえる
仲介業者の説明では、頭からざっと読み流していくケースがほとんどです。契約書に書かれた重要なことがらを見逃さないためにも、以下の6つのポイントに注意して、メリハリを付けて読むようにしてください。
- 手付金の額は適正かどうか?
- 租税公課の起算日はいつか?
- 融資申込先の金融機関は? ローン解除の可能性はないか?
- 契約不適合責任はどう定められているか?
- 公簿売買か実測売買か?
- 特約条項はしっかり読み込む
この記事では特に気をつけたいポイントのみをあげています。契約書のこれ以外の部分も、できるだけじっくり読み込んでください。
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注1……宅建業者には、契約成立の前に、宅地建物取引業第37条で定められた書面(37条書面)の交付が義務づけられています。この37条書面の内容は売買契約書と重複する項目が多いため、一般に、売買契約書で代用しています。