この記事でわかること
- 宅地に転用可能な農地とは?
- 農地転用の流れと必要書類
- 農振農用地内の土地について(ハードル高)
- 現況証明という裏ワザについて

農地を売却するにはふたつのパターンがあります。
農地法3条 | 農地法5条 | |
許可内容 | 農地を農地のまま売却 | 農地を転用して売却 |
備考 | 農業従事者にしか売れない。価格は安い | 一般の人に売れる。価格は高め |
農地法3条申請は、農地を農地のまま、農家の人(または農業生産法人)に売却するパターン。これは若干特殊ケースなので、この記事では触れていません。
記事内では、農地を宅地等に転用して売却(農地法5条の許可)する方法を徹底解説します。条件はありますが、5条の許可を得て売却するほうが有利です。

タップできる目次
地目が農地の場合、そのままでは買った人の名義に移転登記ができません。そこで、登記簿上「畑」「田」といった地目となっている場合、売却と平行して「宅地」などに地目変更する必要があります。

農地転用には2つのハードルが存在

次のような質問をときおり耳にします。

基本的には、こういう転用はできません。農地法5条の許可申請は売主(農地を持っている人)と買主(農地を買って転用する人)が共同で行う必要があるからです。
ただし、市街化区域内では自己転用が可能です(農地法4条第1項第7号)。この場合は許可ではなく届出でOKです。市街化区域は市街化を促進する地域なので、農地を宅地に変えることは都市計画上好ましいことだからです。

農地を転用しやすい条件とは?
農地転用にはいくつかの法律の要件が複雑に絡んでいます。そこで農地を転用できる条件をざっくり整理すると、次のようになります。


農振農用地区域外なら可能性あり

不動産屋が農地の売却依頼を受けた場合、実務上真っ先に調査するのが「農振内」か「農振外」かという点です。
農業振興地域 | 農用地区域 | 不許可 |
農振白地 | 高難度 | |
農振外 | 許可の可能性あり |
「農振内」「農振外」といった記述は他の用語で書かれている場合もありますので、次の表で確認してみてください(ただし不動産の物件資料では通常、農振内・農振外で区別されています)。
転用が難しいケース | 農振内、農振農用地、甲種農地、第1種農地 |
転用の可能性があるケース | 農振外、農振農用地外、第2種農地、第3種農地 |
補足すると、第3種農地ではおおむね転用が許可されます。第2種農地では「周辺の土地では事業の目的が達成できない場合」などに許可されます(注1)。

農振農用地に含まれているか資料に書かれていない場合は、市町村の農業委員会に問い合わせるとわかります。市町村のホームページを探すと農業委員会の電話番号が掲載されていますので、まずは電話してみて「農振の確認をしたいのですが」と尋ねてみてください。
たいていの市町村では電話による問い合わせを受け付けていませんが、ファックスで問い合わせると、ファックスで回答してくれます。その際、問い合わせたい土地の地番を尋ねられますので、登記簿などで確認しておいてください。
市町村からの回答に「農振内」と書かれていたら、農地転用は潔く諦めます(粘る方法は記事の下の方に書いていますが……)。「農振外」の場合は調査を続けます。
①農地の種類を確認できたら、次は②都市計画をチェックします。
ポイント
住宅を建てられる「宅地」への転用について考えると、農振内は非常に難しいです。農振外であれば可能性がありますが、甲種や第1種農地は難関です。
市街化調整区域はハードル高め

市街化調整区域というのは、都市計画を定める上で「市街化を抑制する」と定められたエリアです。ここでは、農地は農地として残すことが原則ですから、農地転用のハードルはかなり高くなります。

ただし、どうしても挑戦したい場合は、以下の記事を参考に「建築できそうな要件」をチェックしてみてください。
参考【激安不動産】お宝が眠る(かもしれない)市街化調整区域入門
レアケースですが、地目が畑の既存宅地なども存在します。大規模既存宅地(自己用住宅の立地緩和区域)内の土地で地目が畑の場合、転用の可能性が出てきます。ただし、自己用住宅の立地緩和区域では、ちゃんと住民票も移動して、自分が住むための住宅を建てることが条件になりますので、投資家などへの売却は困難になります。
都市計画区域外が狙い目
市街化区域、市街化調整区域、都市計画区域外をざっくり整理すると以下の表のようになります。
都市計画区域 | 市街化区域 |
市街化調整区域 | |
都市計画区域外(都計外) |
市街化区域は市街化を推進する区域、市街化調整区域は市街化を抑制する区域でした。その両方とも、都市計画区域内に存在しています。
では都市計画区域外は? というと、都市計画が定められていない場所。乱暴にいうと、こんな感じです。
市街化区域 | 都会 |
市街化調整区域 | 田舎 |
都市計画区域外 | さらに田舎 |
このように書くとよほど田舎にしか存在しないように見えますが、そこそこ立地のよい都市計画区域外物件もみつかります。試しにSUUMOで「都市計画区域外」をキーワードに検索してみたところ、次ようなエリアがヒットしました(2020年8月24日現在)。

こうしてみるとやっぱり田舎ですが、場所によってはかなり人が住んでいるエリアもあります。たとえば岡山県瀬戸内市は全域が都市計画区域外ですが、約38,000人の人口を擁しており、なおかつ岡山市に隣接しています。
こういった市町村であれば農地を宅地に変えることで、その土地の価値をアップすることが可能です。ご自分が保有されている物件が、都市計画法上どういう地域に存在するかは重要な要素です。
ポイント
都市計画に着目すると、市街化調整区域は転用できないケースが多いです。市街化区域または都市計画区域外なら狙い目。
都市計画の調べ方は?
自分が所有している土地が市街化区域に該当するか、市街化調整区域に該当するかを調べるには、都市計画地図を購入するのが確実です。市町村役場の都市計画担当窓口で購入でき、だいたい500円くらいのケースが多いです。
市町村役場が遠方であれば、電話で問い合わせれば答えてくれます。

と尋ねると、市街化区域であれば用途地域を教えてくれますし、市街化調整区域内であれば「市街化調整区域ですね。用途未指定です」などと答えてくれます。また、もし都市計画区域外にある場合は「そこは都市計画区域外ですね」と教えてくれるはずです。

市街化調整区域に該当する場合は、住宅建築について緩和条件があるかないかを必ず確認しておいてください。
ここまで読んで「手ごわいな」と感じたら?
ここまでの解説を読んで「こんな面倒な調査を自分でする時間がない」「手がかかりすぎる」と感じたら、ネットの無料査定を申し込むという方法もあります。
リビンマッチというサイトであれば農地にも対応していますので、これを利用すると不動産業者の無料査定を入手できます。
ただし、場所によっては対応できる業者がないこともありますので、その場合は自分で調査をするか専門家に相談する必要がでてきます。
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また農地は難しいので、不動産業者の調査が間違っている可能性もゼロではありません。その点も注意する必要があります。
農地転用の流れと必要書類


市街化区域外の農地の転用は、次のようなフローで許可申請を行います(市街化区域内の場合は届出でOK)。

ただし、これには例外があり、30aを超える農地転用では都道府県農業委員会ネットワーク機構の意見を聞く必要があったり、4ha超の農地の場合は農林水産大臣の許可が必要になります。
一般的な規模の土地に絞り、なおかつ「農地を売買して宅地に転用する」という手順に絞って考えると、次のようなステップになります。
step
1売買契約締結
売買契約までは普通の売買契約と同じです。売買契約締結と同時に手付金の授受があります。また、売買契約には「万が一五条申請が認められなかった場合は、契約を白紙撤回する」という特約条項を入れておくのが一般的です。
step
2五条許可申請提出
売主・買主が共同で許可申請書を提出。提出先は市町村農業委員会です。農業委員会の総会(月に1回)を経て都道府県に送付され、都道府県知事の許可通知が農業委員会に戻されます。
step
3残金決済と同時に所有権移転登記申請
農業委員会から転用が許可されたと通知が来たら、残りの売買代金を支払い、同時に登記名義を買主に変更する登記申請を行います。この登記申請の時に、五条申請の許可通知書を添付する必要があるため、このようなステップになります。
また、五条申請の際に申請書と同時に農業委員会に提出する書類は以下の通りです(通常必要でないものを少し省略しています)。
- 土地の登記事項証明書及び地番を示す図面
- 位置図(縮尺1/10,000ないし1/50,000程度)
- 建物・施設の面積、位置を表示する図面(縮尺は1/500ないし1/2,000程度)
- 転用の目的にかかる事業の資金計画に基づいて事業を実施するために必要な視力及び信用のあることを証する書面(通帳のコピーなど)
- 転用に伴い他法令の許認可を得ている場合はその旨を証する書面
- 転用値が土地改良区域内にある場合は、当該土地改良区の意見書
- その他(法人の場合や耕作者がいる場合その他の場合)

農用地区域内の農地(農振農用地)の転用

都道府県知事が指定した農業振興地域内の市町村は、地域の農業の振興を図るために農振法第8条2項の農地利用計画を定めます。ここで農用地区域に定められると、その土地は開発行為が制限され、指定された用途以外では利用できなくなります。
そのため農用地区域内の土地(農振農用地)は、そのままでは転用できません。
農振除外申請をする
農用地区域からの除外申請を行う場合、条件がかなり狭いので、それを覚悟の上で挑戦してください。
以下のリストに含まれている場合、農振除外の可能性があります。
- 土地改良事業等における非農用地区域
- 優良田園住宅のための土地(優良田園住宅法)
- 農工法に基づく施設の整備
- 公益性が特に高いと認められる施設で農業的土地利用に支障を及ぼす恐れがないもの
上記のリストに該当しない土地の場合、以下の5つの要件をすべて満たせば、農振除外の可能性が出てきます。
- 農業振興地域整備計画の農用地区域以外の区域内の土地利用の状況からみて、農用地等に設置することが必要かつ適当であって、農用地区域以外に代替すべき土地がないこと。
- 農業上の効率的かつ総合的な利用に支障を及ぼす恐れがないこと。
- 効率的かつ安定的な農業経営を営むものに対する農用地の利用の集積に支障を及ぼす恐れがないこと。
- ため池、排水路、農道等土地改良施設の有する機能に支障を及ぼす恐れがないこと。
- 土地改良事業等の事業完了した年度の翌年度から8年を経過していること。

誰に相談すべき?
上記の厳しい要件に該当して「農振除外の可能性がある」という場合、一般的には市町村の農業委員会に相談に行くと思います。しかし農業委員会はどちらかというと農地を転用するのに否定的な人が多いので、その前に行政書士さんに相談するのが正解だと思います。
一般の行政書士ではハードルが高いので、いちばんおすすめしたいのは市町村役場OBの行政書士。公務員を一定年数以上務めると行政書士資格がもらえるため、役所を定年退職後に行政書士を開業する人がいるのですが、こういう人がベストです。

以上、農用地域内の農地の転用はマニアックな話なので、概要を説明したのみです。が、とにかく大切なのは最後の「市町村役場OBの行政書士に相談」というところ。自分で申請するのは壁が高すぎるので、専門家に依頼することをおすすめします。
【参考】私が経験した事例
参考までに、腕利きの行政書士に依頼して、不可能を可能にした事例をご紹介します。
農振農用地にコンビニ建築を可能とした事例
顧客からの、農振農用地内の農地の土地活用に関する相談に対し、粘り強い調査の後にコンビニ建築が可能となる法令上の根拠を発見。開発許可にこぎ着けた事例。
もともと某市役所農業委員会出身OBだったので農地に詳しく、過去に取り扱った事例をヒントに法令等を調査していったそうです。
こういうこともありますので、専門家に相談してみる価値はあると思います。
どうしても転用できなくても売却できる?
もし「どんな手を使っても農地を宅地に転用できない」という場合は、農地を農地として売却することになります。価格としては宅地に比べると不利ですが、それでも不動産業者によっては農地を扱っており、最終的にはちゃんと売却してくれます。
オンライン査定サイトの中ではリビンマッチが農地に対応していますので、こういったサービスを利用すれば、農地を扱ってくれる不動産業者を探すことができます(エリアによっては対応していないケースもあります)。
参考不動産一括査定サイト「リビンマッチ」のクチコミと利用のポイント
【裏ワザ】現況証明・非農地証明による転用
実は実務上、農地法五条申請によらない地目変更(転用)も時々目にします。農業委員会で現況証明や非農地証明を取得する方法です。

現況証明 | 農地法五条申請などの転用許可を得たけれど地目変更していなかったり、農地法の適用以前から宅地だった土地等について、農業委員会が、現況として農地でないことを証明。 |
非農地証明 | 農地法適用以前から森林などの状況であって非農地だった土地や、農地として使用することが困難な土地について、農業委員会が、非農地として証明。 |
これらの証明書があれば、農地を雑種地などに変更する登記申請が可能となります。地目が雑種地や森林であれば、農家でない一般の人でも買い受けることが可能なので、土地売買の自由度が大きく上がります。

ポイント
正攻法の農地法五条申請以外に、現況証明・非農地証明も使える点は覚えておいてソンのないポイントです。ただし、どの市町村でも利用できるわけではありません。
注1……甲種農地や1種農地は農振外にありますが、原則として農地転用が許可されない農地です。