不動産活用

相続したが使わない空き家の所有権を放棄できる? 法律的な観点から考察

2020年5月18日

下記のエントリーで、「相続をしたが不要な土地・不要な空き家を捨てられるのか」という論点について考えました。趣旨としては実務上可能かどうかに力点を置いて書いています。

「相続したがいらない土地」を捨てられるのか? 『負動産時代』

本エントリーは音声でも聴取できます。   田舎で不動産業(宅建業)を営んでいると、時々尋ねられる質問があります。「相続したいらない土地を放棄して、国に買い取ってもらえるのか(国庫に帰属させられるのか) ...

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今回は、法律的にどうかという観点から「いらない不動産の所有権を放棄できるのか」を考えてみます。

結論としては法律の観点からも、いらない土地や空き家の所有権を放棄するのは極めて困難といえます。

民法上、所有者がいる土地を放棄できる?

動産であれば所有権の放棄は可能です(でないと粗大ゴミを捨てたりできない)が、不動産の所有権については簡単にはいきません。民法はたしかに「所有者のない不動産は、国庫に帰属する」と定めています。

(無主物の帰属) 第二百三十九条 所有者のない動産は、所有の意思をもって占有することによって、その所有権を取得する。 2 所有者のない不動産は、国庫に帰属する。

しかし、もともと所有者がいる不動産について、その所有者が所有権を放棄することで無主の不動産とすることができるのかは、条文に規定されていません。札幌学院大学の田處博之教授によると、「学説では、不動産についても一般論としては、所有権放棄できるという見解が多数です」とのことですが、実務上は簡単ではないようです。

不動産には登記の問題があり、不動産の所有権を放棄する人(「Aさん」とします)から国への所有権移転登記を申請するとしたら、Aさんと国との共同申請になります。従って国の協力が得られないと、所有権を放棄しようとしても登記上の名義を移転できない、というカベに阻まれることになります(注1)。

上述の「『相続したがいらない土地』を捨てられるのか? 『負動産時代』」という記事で紹介した本には、その点を争った司法書士さんの例が紹介されています。「父親から贈与された山林の所有権を放棄するから、国は登記名義を引き取れ」という訴えを提起したのですが、判決が敗訴。裁判所は一般論として不動産の所有権放棄の可能性は認めつつも、この原告の主張は権利の濫用にあたるとして退けたのです。

では相続放棄をすれば……?

比較的確実なのは、相続が開始したタイミングで相続人全員が相続放棄をすること。前述の田處教授が寄稿した『国民生活』(2018年6月)の記事には、以下のように書かれています。

相続人全員が相続放棄して相続人不存在となったら、相続債務の弁済などを済ませた後残余の相続財産は国庫に帰属します。民法959条が明記するところで、これは国も受け入れざるを得ません。

しかし同時に、記事ではふたつの問題点を挙げています。

  1. 相続財産管理人の選任にあたって予納金が必要
  2. 財産の中に相続したい物があると使えない手である

相続財産の精算手続きを進めるため、家庭裁判所で相続財産の管理人を選任してもらう必要がありますが、そのためには予納金が必要です。予納金の額は100万円程度といわれているので、それを支払わないと手続きが進められないのです。

もうひとつの問題は、相続財産の中に相続したい物がある場合には、相続放棄ができないこと。相続放棄をした者は、初めから相続人とならなかったものとみなされるからです。従って、「親の自宅土地建物は相続したいけど、原野は不要」といった選択ができません。これもネックになりそうです。

以上から、法律や登記の面から見ても、いらない不動産の所有権を放棄するというのは、かなりハードルが高いといえそうです。


 

注1……『Q&A 空き家に関する法律相談』(日本司法書士会連合会編著)によれば、次のように説明されています。

昭和57年5月11日付民三第3292号民事局第三課長回答では、亡父より相続した土地につき固定資産税が課されるので所有権を放棄したという事案に対し、「土地の所有権を放棄する者が単独でその登記を申請することはできない」と回答しています。

ということで、登記先例上も、不動産の所有権を放棄して国に引き取ってもらうのは難しいといえます。

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