不動産の終活

山林や農地を相続したがいらない!その時どうすれば捨てられる?売れるの?

2020年4月8日

https://realestate-mag.com

「山林や農地を相続したけどいらない」という場合、捨てる方法はありません。

  • 所有権を放棄してしまいたい
  • 国や自治体に寄附したい

そういう人はいますが、いずれも不可能です。所有権の放棄については、法律の専門家がトライしたものの裁判で認められませんでした(後で詳しく出てきます)。また、国や自治体に、いらない不動産を引き取ってもらう制度が存在しません

結論としては、次のいずれかの方法しかありません。

この記事で詳しく見ていきますが、他の方法ではすべて壁にぶち当たってしまうのです。

「いらない土地だ」と断言する前に、以下の記事などを参照して、本当に建築できない土地・価値のない土地なのかを再確認するかとはあると思います。

参考再建築不可に抜け道はあるのか!?非道路と判定されても粘って調べる方法

ほとんどの人が考える負動産の処分方法は非現実的

この章では、不動産を捨てると考えたときに一番最初に思い浮かぶ方法がほとんど実行不可能なことを、まず説明していきます。

国や自治体に引き取ってもらいたいという人は結構多いのですが、行政は不要な土地を引き取ってくれません

また相続放棄をしたいと考える人も多いのですが、いらないものだけを選択して相続放棄するという事はできません

不要な不動産を簡単に捨ててしまう方法や、あっさり所有権を放棄する方法は、現実には存在しないことがわかります。

国や自治体に寄附したいNG

国土交通省が「土地を放棄したい」と考えている2094人の人に対して行ったアンケート調査では、多くの人が国や自治体に引き取ってもらいたいと答えています。

グラフのように、最も多いのは「特に希望はない」の747人ですが、土地の受け入れ希望先として国と地方自治体を挙げた人はあわせて625人。2番目に多い数字です。

はたして、国や地方自治体は不要な土地・不要な不動産を受け入れてくれるのでしょうか? 『負動産時代 マイナス価格となる家と土地』(朝日新聞取材班)には、興味深い記事が掲載されていました。

司法書士が提起した実験的訴訟

民法には「所有者のない不動産は国庫に帰属する」という規定があります。しかし、それを実際に運用する細かい規定は設けられておらず、どういった場合に国庫に帰属させられるのか明確ではありません。

そこで、とある司法書士が国を相手に裁判を起こしました。

訴えを起こしたのは鳥取県米子市の司法書士・鹿島康裕さん。「土地は捨てられるか否か」が直接争われた珍しい裁判となった。14年、島根県安来市の山林約2万3千平方メートルを父親から生前贈与された。その3週間後、鹿島さんは山林の所有権を「放棄する」とし、所有者のいない不動産なので国が引き取るべきだと訴えを起こした。

裁判は高裁まで争われましたが、鹿島さんは敗訴したそうです。

判決では、「鹿島さんは山林の保有が負担になるとして国に押しつけようとした」と認定され、権利濫用にあたるとして訴えが退けられました。

現状、国や自治体に、何かの要件を満たせば不要な不動産を引き取ってくれる制度は存在しません。むしろ、国有地を管理する財務省のサイトには、次のように書かれています。

なお、行政目的で使用する予定のない土地等の寄付については、維持・管理コスト(国民負担)が増大する可能性等が考えられるため、これを受け入れておりません。

実務の経験上も、市町村などに「不要な土地を引き取ってもらえますか?」と打診して、引き取ってもらえたことはありません

参考国に土地等を寄付したいと考えていますが、可能でしょうか……財務省

相続した不動産を国に売却すること、必要ない実家の所有権を放棄して自治体に引き取ってもらうことは、非常にハードルが高いといえます。

いらない山だけ相続放棄NG

この土地は使い道もなく不要だから相続放棄したい。

そういう話もよく聞きます。でもそれは制度上不可能です。相続放棄をすると、そもそも相続自体がなかったことになるため、「いい不動産だけを選んで相続し、残りは相続放棄しよう」というような選択ができないのです。

相続放棄をする時はみんなでやらないと問題が起きるかも!?

本来相続をするはずだった人(たとえば亡くなった人の子供)が相続放棄をすると、次順位の相続人に順番が回ってきます。

「たとえばお父さんが残した不要な土地があるので相続放棄をした」という場合、おじいさんやおばあさんが生きていれば、そちらが相続人になってしまいます。おじいさんおばあさんが亡くなっているとしたら、親戚のおじさんおばさんが相続人になってしまったりします。

そこで相続人全員が相続放棄をしないと、誰かがババをひいてしまうという結果になります。

相続人全員が相続放棄をしても問題は残る

理屈としては、土地の所有権を全ての相続人が放棄したら、一応誰も所有者がいない土地になります。しかしそれでもすぐに国が引き取ってくれるわけではありません。

上の図のような面倒な手続きがあります。まず、相続放棄をした相続人の誰かが家庭裁判所に申し立て、相続財産管理人を立てます。相続財産管理人が売却するために様々な努力をして、それでも売れ残った場合のみ、初めて国が引き取ってくれます。

またこういった手続きにかかる費用は被相続人が負担するしかありません

そのため相続放棄したために、意外な管理費用がかかってしまった、ということにもなりかねません。

参考相続の放棄の申述 裁判所

相続放棄するにも100万円かかってしまう!?

この点について、札幌学院大学の田處博之教授は次のように述べています。

相続財産の清算手続きを進めて、残った不動産を国に引き取ってもらうには、まずは相続財産の管理人(弁護士や司法書士でもあることが多いです)を家庭裁判所で専任してもらう必要があります(民法952条1項)。これには予納金が必要で(100万円程度といわれます)…(中略)…したがって、100万円なりを払ってでも、その不動産とは完全に縁を切りたい、と考えるかどうかの選択を、相続放棄者は迫られることになります。

不要な不動産を放棄するために100万円を支払う……となると、かなり考えてしまいますよね

相続放棄や限定承認については、以下の記事で解説しています。

参考不動産を相続したらすべきことまとめ【手続き全般】

司法書士に頼んで登記名義を抜いてもらうNG

そういうことなら、登記上の名義をなんとかして抜いてしまえないか?

所有権放棄 → 国が引き取る(国庫に帰属)

これは一見、理屈としてはあり得そうです。しかし、そう考えて司法書士に相談しても「ムリです」と回答されてしまいます。

実は昭和57年に法務局から、「土地の所有権を放棄する者が単独でその登記を申請することはできない」という通達が出ているのです(昭和57年5月11日付代3292号民事局第三課長回答)。

登記ができる・できないというのは、先例や通達に基づいて判断されます。そのため、とりあえず登記申請して所有者でなくなることはできないか? と考えても、その登記は却下されるのです。

いらない山林や農地を持ち続けるデメリットとリスクは?

それなら「めんどうだし、もうずっと放置しておこう」と考える人もいます。しかし、いらない不動産を持ち続けるにはデメリットやリスクが存在しています

  1. 固定資産税がかかる
  2. 事故が起きた時の責任がある
  3. 放置しておくと相続人が増えて収集がつかなくなる

などなど、あまりいいことがありません。

固定資産税はどれくらいかかる?

固定資産税の額は、土地の評価額によって変わります。固定資産税評価額が30万円未満であれば、免税点を下回るため、固定資産税はかかりません。

それ以上であれば固定資産税が課税されます。

固定資産税の税額は、固定資産税評価額の1.4%です。これが毎年かかってくるとなると、負担に感じてしまうことが多いと思います。

国土交通省の調査では、土地所有権を手放したいという人の中で「税金の負担が重い」とする人は非常に多いことがわかります。

農地や森林でも4割の人が「税金の負担が重い」と答えていますし、宅地では約半数の人が「税金の負担が重い」と回答しました。

不動産所有者の責任はけっこう重い

もし相続した土地が崖崩れを起こしやすい地形だったり、崩れる可能性がある擁壁で囲まれていた場合は、かなり注意が必要です。

不動産が原因で起きた事故は、占有者か所有者の責任になります。とりわけ、所有者は責任を逃れにくく、何かあると損害賠償される可能性が出てしまいます。

放置するのはおすすめしない!やがて権利関係が複雑に

法務局がつくった資料『長期間相続登記等がされていないって?』には、相続登記をしないで放置することのデメリットが解説されています。

・所有者不明土地の原因になっている
・長い間放置されると、何代にもわたって相続が発生し、相続人が把握できなくなる
・2回以上相続がおきてしまうと、相続人調査や登記費用が高額になる

法務局なのでマイルドな書き方をしていますが、長年相続登記をしなかった土地を実務で扱うと常に苦労します。

司法書士に何週間もかけて戸籍をたどってもらい、相続人をひとりひとり確定していくのですが、その途中で「あ、この人は海外に住んでますね」といった事も起こります。

時間と労力とお金がかかりますし、もしそれを自分の代で片付けておかなかったら、子供や孫の世代に苦労させることになります。

めんどうでも放置することは避けて、何らかの対策を考えるべきだといえます。

これしかない!いらない不動産の処分方法2選

ここまで見てきたように、いらない不動産の所有権を簡単に放棄する方法はありません。相続の時がチャンスですが、それでも相続放棄に100万円もかかるとしたら、現実的ではありません。

残された可能性としては、

  1. 何とか売却できないか再確認してみる
  2. いらない物件をもらう人をさがすマッチングサイトを利用

の2点が現実的。とりあえず放置して子孫に問題を引き継ぐより、ネット完結のサービス2つを利用してみることをおすすめします。

農地や山林に対応している査定サイトはイエイとリビンマッチ

インターネットの不動産査定サイトはどんどん数が増えています。いろいろな特色を打ち出すサイトが多い中、農地や山林については老舗サイトががんばっています。

私は不動産会社を経営している時、いくつかの査定サイトに登録していました。イエイとリビンマッチからは、かなりの数の農地の査定依頼を受け、対応しました。

老舗サイトは規模が大きいため、とりあえず何でも査定できる体勢を整えています。そこで、特色を打ち出した斬新なサイトよりも、イエイかリビンマッチを利用することをおすすめします。

参考イエイ……農地など幅広く査定できます(無料)

参考リビンマッチ……こちらも農地や林地に対応しています(無料)

負動産をもらう人が見つかるマッチングサイトが登場!

比較的最近登場したサービスですが、「みんなの0円物件」というサイトで「いらない不動産をもらってくれる人」を探せます。

ただであげるかわりに、サイトの掲載料も0円。無料で広告することができます。2017年にサービスを開始して、登録件数は約140件と多くはありません。しかし、8割以上の物件でマッチングが成立しているので、処分できる可能性はけっこう高いようです。

建物解体費用や固定資産税を考えたら、無償で譲渡するほうが合理的な場合もあります。査定サイトなどを利用しても「どうしても売れないな」となった場合の、切り札になるサービスです。

参考みんなの0円物件……物件をあげたい人は登録無料

すぐに行動を起こせないときは自分で物件を「査定」

当社で配布している不動産査定ソフト(誰でも使えます)

すでに相続してしまったものの、そこまですぐに行動を起こす気になれないときは、自分で不動産の価格を査定できるフリーソフトを利用してみてください。当サイトで配布している「アップライト不動産査定」なら、土地の価格は一発で概算査定できます。

参考【無料】不動産査定のフリーソフトを公開!契約書ひな形もダウンロード可能です

国土交通省が管理する不動産取引事例データ120万件を内蔵しているので、多少田舎であっても査定可能です。詳しくは上のリンクやダウンロードページで使い方を見てみてください(Windows専用です)。無料で利用できますが、気が向いたらこのサイトへのリンクとソフトの広報をお願いします。

おすすめの本『負動産時代』

2017年に財務省の方針が変わり、相続放棄された土地を国が引き取る際の手続きが簡略化されました。

また同じ時期に法務省が土地を放棄するルールの検討に着手しました。

これまでは民法上、土地を放棄する手続きが定められていませんでした。所有権放棄した土地を積極的に受け入れるような制度を作ったら、コストが膨大になってしまうという反論もあり、簡単には進みそうではありません。しかし、いずれはこういった制度で不要な不動産を捨てることが可能にならないと、この問題が解決されないものになってしまいます。

この本では、マイナス価値となりつつある不動産について取材、報告しています。

補足:仲介手数料の規定が変わり、少しだけ不動産屋がやる気に!

実は2018年、負動産の売却の促進につながる法令の改正がありました。仲介手数料(報酬)規定が改められ、400万円以下の不動産売却において売主から受領できる仲介料の上限が少し引き上げられたのです(正確には通常の取引と比較して現地調査等の費用を要するものについては、一定のルールの下で当該現地調査等の費用の相当額を報酬額に加算できるようになりました。最大で18万円+税となります)。

以前は価格が100万円の物件を売っても、仲介手数料は税込み55,000円しかもらえませんでした。それが税込み198,000円にアップしたのです。

20万円に満たない報酬額ですが、それでもほとんどお金にならなかった時代に比べて不動産業者は動きやすくなっているはずです。

参考文献

日本司法書士連合会編著『Q&A 空き家に関する法律相談』
朝日新聞取材班(2019)『負動産時代 マイナス価格となる家と土地』朝日新聞出版
田處博之(2018)「土地所有権放棄の現状と課題」、『国民生活』2018年6月号、独立行政法人国民生活センター
国土交通省(2019)『H30年個人土地所有者向けアンケート結果について』

  • この記事を書いた人

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hide(立石秀彦):実業之日本社で雑誌・書籍編集に携わり、その後沖縄に移住。合同会社沖縄かりゆし不動産を創業し、リゾート系物件の仲介業務を中心に扱う不動産会社を経営してきました。宅地建物取引士。

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