不動産活用

「相続したがいらない土地」を捨てられるのか? 『負動産時代』

2020年4月8日

本エントリーは音声でも聴取できます。


 

田舎で不動産業(宅建業)を営んでいると、時々尋ねられる質問があります。「相続したいらない土地を放棄して、国に買い取ってもらえるのか(国庫に帰属させられるのか)?」という論点です。事務所引っ越し中、これについて参考になりそうな書籍が出てきたので、ご紹介します。


「不動産を相続したけれどもいらない」「見たこともない田舎の不動産を相続したので売りたい」といったニーズは常にあり、こういったお問い合わせをいただくと現地を調査して査定額を出し、最適な処分方法を提案することになります。

数次相続が発生して何代も使われていないような土地は、道路に接しない袋地だったり、急峻な山の斜面だったりして、そもそも利用できないケースがよくあります。固定資産税が免税点以下であればまだよいのですが、場合によっては毎年固定資産税が課税されていることもあります。

以前調査した無道路地。相続による取得だった…

そういった土地(不動産)を放棄できるのか? 『負動産時代 マイナス価格となる家と土地(朝日新聞取材班)』には、興味深い記事が掲載されています。

司法書士が提起した実験的訴訟

民法には「所有者のない不動産は国庫に帰属する」という規定があります。しかし、それを実際に運用する詳細な規定は設けられておらず、どういった場合に国庫に帰属させられるのか明確ではありません。そこで、とある司法書士が国を相手に訴えを起こしました。

訴えを起こしたのは鳥取県米子市の司法書士・鹿島康裕さん。「土地は捨てられるか否か」が直接争われた珍しい裁判となった。14年、島根県安来市の山林約2万3千平方メートルを父親から生前贈与された。その3週間後、鹿島さんは山林の所有権を「放棄する」とし、所有者のいない不動産なので国が引き取るべきだと訴えを起こした。

裁判は高裁まで争われましたが、鹿島さんは敗訴したそうです。

判決によると、裁判所は原告が山林の保有が負担になると考えて国に押しつけようとしたなどと認定し、権利の濫用にあたるとして訴えを退けたそうです。ただし一方で、判決は「不動産の所有権放棄が一般論として認められる」とも判示したそうです。しかし現在、放棄したい負動産を放棄する手続きは、日本には存在しません。法務省で不要土地を放棄する制度について検討されてはいるようですが、まだ具体的な段階ではありません。

現状、実際の取り扱いにおいても、国や地方公共団体が個人の所有地を引き取ってくれることはほとんど考えられません。国有地を管理する財務省のサイトには、次のように書かれています。

なお、行政目的で使用する予定のない土地等の寄付については、維持・管理コスト(国民負担)が増大する可能性等が考えられるため、これを受け入れておりません。

これまでの経験では、市町村などに「不要な土地を引き取ってもらえますか?」と打診して、引き取ってもらえることもまれです。

財務省「国に土地等を寄付したいと考えていますが、可能でしょうか」

相続した負動産を国に売却すること、必要ない実家の所有権を放棄して自治体に引き取ってもらうことは、非常にハードルが高いと考えてよいでしょう。

では不要土地はどうすべきなのか?

建物があるなら空き家バンクや家いちばなどで譲るという手もありますが、いずれもあまり効率がよさそうには思えません。自治体が運営している空き家バンクは民間に比べてインターフェイス面や営業面で劣るため「とりあえず登録しておくか」くらいに考えた方がよさそうです。

いずれにせよ処分が難しい不動産を効率的に手放す方法はないのですが、当該不要な不動産があるエリアで、負動産を広告している仲介業者に相談してみるというのが最有力な処分方法ではないかと思います。現状で10万円とか30万円の土地を広告している業者であれば、仲介を引き受けて広告してくれる可能性はあります。不動産広告もウェブ中心になっているので、1件や2件物件が増えても、そんなに負担はありませんから、広告を出し続けてくれる公算は十分にあります。

そうやって気長に広告して、なんとか買い手(あるいはほとんどもらい手)を探すというのが現状一番可能性のある方法だと思います。

実は2018年、負動産の売却の促進につながる宅地建物取引業法の改正がありました。仲介手数料(報酬)規定が改められ、400万円以下の不動産売却において売主から受領できる仲介料の上限が少し引き上げられたのです(正確には通常の取引と比較して現地調査等の費用を要するものについては、一定のルールの下で当該現地調査等の費用の相当額を報酬額に加算できるようになりました。最大で18万円+税となります)。

20万円に満たない報酬額ですが、それでもほとんどお金にならなかった時代に比べて不動産業者は動きやすくなっているはずです。


 

2020年5月18日に、法律の観点から見たフォローアップ記事を書きました。以下からご参照いただけます。

相続したが使わない空き家の所有権を放棄できる? 法律的な観点から考察

下記のエントリーで、「相続をしたが不要な土地・不要な空き家を捨てられるのか」という論点について考えました。趣旨としては実務上可能かどうかに力点を置いて書いています。 今回は、法律的にどうかという観点か ...

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