「定期借家契約」という、賃貸物件の契約の仕方(貸し方)を解説した本。基本事項から解説する、入門書的な内容です。
本書では、期限を区切って物件を貸す「定期借家契約」を解説しています。普通借家契約とくらべて、主に大家さんにどのようなメリットがあるのか、が読みどころ。大家さんの観点から見て「これからは定期借家契約にしたほうがよい」という主張はうなづけます。
大家さんの救世主となる契約形態
平成12年以前の借家契約では、賃貸人(入居者)が手厚く保護されており、たとえ不良入居者であっても退去してもらうことは非常に困難でした。ところが、借地借家法に「定期建物賃貸借等」という項目が追加されたことで、一定期間を経過した場合に退去してもらうことが可能となりました。
本書の記述とは離れますが、条文を見てみましょう。
第38条① 期間の定めがある建物の賃貸借をする場合においては、公正証書による等書面によって契約をするときに限り(中略)契約の更新がないこととする胸を定めることができる。この場合には、第29条第一項の規定を適用しない。
②前項の規定による建物の賃貸借をしようとするときは、建物の賃貸人は、あらかじめ、建物の賃借人に対し、同項の規定による建物の賃貸借は契約の更新がなく、期間の満了により当該建物の賃貸借は終了することについてその旨を記載した書面を交付して説明しなければならない。
つまり、定期借家契約とは①公正証書等の書面によって期間の定めのある建物賃貸借契約を交わし、②なおかつ事前に「契約の更新がなく、期間の満了によって賃貸借が終了する」旨を記載した書面を交付して説明した場合において、有効な契約類型です。
この契約類型は、不良入居者等に悩まされていた大家さんや不動産業者には朗報といえますが、あまり普及していません。
本書が解説するのはその背景と、具体的な対処方法です。
定期借家契約のメリットとは何か
本書では、定期借家契約は、大家さんにとってもっともメリットが大きいものだといいます。
定期借家契約は3者の当事者の中では、大家さんがもっともそのメリットを享受できるものです。(中略)定期借家契約とは大家さんが借主と対等の立場になれる契約なのです。
その主なメリットは、次のようなものになります。
・契約期間を自由に設定できる。
・不良入居者を容易に退去させられる。
・いざという時の立ち退き料の支払いがいらない。
・家賃の値上げがしやすい。
・収益の確保ができる。
・入居者によるトラブルの抑止効果がある。
つまり、これまでの普通借家契約で大家さんを悩ませていた「出て行ってほしいときに退去させられない問題」を解決できる契約形態ということです。これはかなり大きなポイントといえそうです。本書で「大家さんが借主と対等の立場になれる契約」といっているのも、退去交渉に関して対等(実際には対等以上の力を持てるでしょう)ということであり、その他の部分ではそれほど変わらないといえます。
本書の注意点とは?
本書の共著者のひとり沖野元氏は、定期借家契約は、大家と不動産業者、そして入居者のすべてにメリットがある「三方よし」の契約だ、と主張しています。しかし、もし私が入居者の立場であれば、定期借家契約は避けたいと思います。なぜなら、上述したように、定期借家契約では、退去に関して大家が入居者と対等(以上)の関係になってしまうからです。
普通借家契約では退去の場面においては入居者が間違いなく有利です。普通借家契約の退去の規定は強行法規といって、それに反する当事者間の取り決めは認められないからです。
退去時の規定以外にも入居者を保護する規定はありますが、多くは任意規定であり、契約によって入居者不利に変更することができてしまいます。実際、多くの賃貸借契約書で、国土交通省標準契約約款などと比べて入居者不利な条項が盛り込まれており、ほとんどの場面で、入居者より大家さんと不動産業者が有利となるでしょう。
退去しなくてもよい権利は、入居者にとっては切り札。このカードを捨ててしまう定期借家契約に、簡単に合意するのはどうかなと思います。
逆に、もしあなたが大家さんであれば「だからこそ定期借家契約に魅力を感じる」ということになるわけです。また本書には「定期賃貸住宅契約についての説明書」や「定期賃貸住宅契約終了についての通知」のフォーマットが掲載されるなど、具体的かつ実践的な内容となっています。
大家さんと不動産業者にとっては必携。また、賃貸住宅を借りようとする人にとっても、自己防衛のために一読しておいて損のない内容となっています。