令和2年(2020年)4月1日から、ついに改正民法が施行されます。以前、弁護士のマコツ(中村真)先生の著書『相続道の歩き方』の書評で、相続法が大きく変わった話に触れました。
しかし、民法は親族相続編以外にもあちこち大幅に改正されており、一から勉強し直す必要がありそうです。というわけで、ここでは意外と身近な保証人の問題(なかでも不動産賃貸の保証人)について、気になるポイントを解説してみます。
極度額を定める必要がある
極度額と書いて「キョクドガク」と読みます。保証人の債務の上限を決めた金額です。不動産賃貸契約の保証人が法人ではなく個人の場合、契約時点で極度額を定めることが義務づけられました。しかも書面(または電磁的記録)に記載しておく必要があります。まだ判例が出ていないので断言できませんが、はっきりと金額で明記しておく必要があるともいわれています。
この極度額の定めをしなかった場合はどうなるのでしょう? 実は「保証契約は無効」ということになります。つまり、大家さんや不動産管理会社は、入居者が滞納しても保証人に求償することができなくなります。保証人からすればラッキー、大家さんからすれば大失態ということです。

気になるのは、今住んでいる賃貸住宅の契約を更新した場合に、新民法が適用されるのかどうか? この点、今のところ賃貸契約が更新されただけであれば(保証契約を新しくまき直していなければ)、保証人の保証債務については旧民法のままと考えられています。今後判例が出てきたら、もう少し確かなことがいえると思います。
(貸金等根保証契約の保証人の責任等)
第465条の2
一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約(以下「根保証契約」という。)であって保証人が法人でないもの(以下「個人根保証契約」という。)の保証人は、主たる債務の元本、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他の債務に従たる全てのものおよびその保証債務について約定された違約金または損害賠償の額について、その全額に係る極度額を限度として、その履行をする責任を負う。
2 個人根保証契約は、前項に規定する極度額を定めなければ、その効力を生じない。
3 第446条第2項(※書面の必要)及び第3項(※電磁的記録)の規定は、個人根保証契約における第一項に規定する極度額の定めについて準用する。
上記の条文が準用している改正民法第446条第2項の規定は、①保証契約は書面でしなければならず、②PCに保存しても(電磁的記録であっても)書面とみなす、といった内容です。というわけで、極度額を決めた上で、なおかつ書面に残しておかなければ、保証契約は無効といえるのです。
では、その極度額とは、いくらなのでしょうか? 国土交通省が参考資料として示しているもののうち、裁判所の判決に関するデータがあります。それによれば、連帯保証人の負担額は、平均で家賃の13.2カ月ぶん、最大で33カ月分とされています。実務上どれくらいの額になるのかは、新民法が施行されてから定まっていくと思われますが、国交省の数字が参考とされるはずです。
事業用の賃貸では、情報提供義務も
店舗など事業用の賃貸物件の場合、家賃数十万円はザラにあります。場合によっては数百万円規模のケースも。そこで、事業用の賃貸借契約の場合には、賃借人(借りる人)は、保証人に対して下記のような情報提供を義務づけられています(個人の保証人の場合)。
- 財産及び収支の状況
- 主たる債務(家賃支払債務)以外に負担している債務の有無並びにその額及び履行状況
- 主たる債務の担保として他に提供し又は提供しようとするものがあるときはその旨及びその内容
賃借人(物件を借りる人)が上記の情報提供を怠った場合には、どうなるのでしょうか? もし賃貸人(大家さん)がそのことを知っていたか、知り得る状況であった場合には、保証人は保証契約を取り消すことができると定められています。
(契約締結時の情報の提供義務)
第465条の10
主たる債務者は、事業のために負担する債務を主たる債務とする保証又は主たる債務の範囲に事業のために負担する債務が含まれる根保証の委託をするときは、委託を受けるものに対し、次に掲げる事項に関する情報を提供しなければならない。
一 財産及び収支の状況
二 主たる債務以外に負担している債務の有無並びにその額及び履行状況
三 主たる債務の担保として他に提供し、又は提供しようとするものがあるときは、その旨及びその内容
2 主たる債務者が前項各号に掲げる事項に関して情報を提供せず、又は事実と異なる情報を提供したために委託を受けた者がその事項について誤認をし、それによって保証契約の申込み又はその承諾の意思表示をした場合において、主たる債務者がその事項に関して情報を提供せず又は事実と異なる情報を提供したことを債権者が知り又は知ることができたときは、保証人は、保証契約を取り消すことができる。
3 全二項の規定は、保証をする者が法人である場合には、適用しない。
保証人に対する情報提供義務
保証人(賃借人から委託を受けた保証人に限ります)から請求を受けた場合、賃貸人(大家さん)は、賃料などの主たる債務の元本、利息、違約金や損害賠償などの債務全般、滞納の有無、それらの残額に関する情報提供を行う必要があります。
つまり、新民法施行後の保証人は、大家さん(賃貸管理会社)に対して「入居者は滞納とかしてないよね? 他にも違約金とか損害金とかないよね?」と、情報提供を求めることができるようになりました。
むしろ今までできなかったのはなぜ? という気もしますが、債務の履行状況は個人情報にもあたるため、簡単に開示できない事情があったのでしょう。
元本確定事由(それ以上負担しなくてよくなる!)
第465条の4で、個人根保証契約の元本の確定事由が定められました。条文に書かれている元本確定事由は次の3つです。
- 賃貸人が保証人に対して金銭債権につき強制執行または担保権実行を申し立てたとき
- 保証人が破産したとき
- 賃借人又は保証人が死亡したとき
この3つのうち、不動産関係者が気になっているのは③の「賃借人又は保証人が死亡したとき」です。賃借人(入居者)がもし自殺して、死後数ヶ月たって発見された場合、亡くなった時点以降の数ヶ月分の家賃を保証人に請求することができません。
なぜなら、賃借人の死亡によって元本が確定するからです。
もちろん、死亡した賃借人の相続人に請求できる可能性はありますが、保証人に対する請求に比べてかなりハードルが上がります。相続人は相続放棄をするかも知れません。あるいは訴訟で争う姿勢を見せるかも知れません。そこで、家賃保証会社の重要度がますますアップしているといわれています。
家賃保証会社は個人の保証人ではありませんので、第465条の4の規定は関係ないということになります。賃借人が死亡して以降の家賃であっても、保証してもらうことができるわけです(詳細は保証会社の契約書を要チェック)。
今回は賃貸契約の連帯保証人のみをとりあげましたが、民法改正は我々の生活に大きな影響を与えるできごととなりました。今までどこまで保証すればよいのかわからなかった連帯保証債務の範囲が限定されることで、保証人にとっては有利になったといえます。
いま連帯保証をしている人は、ご自分が保証している賃貸契約の更新時に、どんな対応がとられるか注目してみてください。法務省の見解では、いい加減な管理会社で「何もせず放置されていた」という場合には、旧民法のままの保証債務が継続されるということになっています。逆に、わざわざ新しい保証契約を締結するマメな管理会社の場合は新民法が適用されます。この新しい保証契約には、極度額の定めが必要で、もし定めがなければ保証しなくてもよいわけです。